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Thursday, May 7, 2020

北欧の日本食市場 | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ(日本貿易振興機構)

ジェトロ・ロンドン事務所が主催して2019年10月14日、スウェーデンの首都ストックホルムで、北欧地域のバイヤーを対象とした食品輸出商談会を開催した。本稿では、開催に当たって収集した北欧地域の日本食市場の現状と商談会の概況や成果について、2月に実施したフォローアップの内容も含めて報告する。

フィンランドでは日本産米の輸入が急増

日本から直行便が飛び、ムーミンでもなじみがある北欧のフィンランドでは近年、日本食人気が高まり、浸透も進んでいる。日本食レストランは多くの場合、日本人の関与はなく、現地のアジア系住民が経営している。また、現地系ラーメン店がチェーン展開を始めている。さらに、少数ながら、日本人経営の日本食レストランや、日本食の要素を取り入れた中・高級のフュージョン・レストラン(注1)などもできている。

フィンランドで近年特徴的なことは、日本からの米輸入の急増だ。日本の農林水産省の資料によると、2019年には日本から欧州向け輸出量でフィンランドはフランス、ドイツを抜き、英国に次ぐ第2位に躍り出た(表参照)。人口が英国の10分の1に満たないフィンランドで英国の約4割に相当する日本産米を輸入しており、極めて突出した値と言えよう。

表:主な欧州各国への米の輸出数量推移(単位:トン)
国名 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
英国 189 326 695 422 450
フィンランド 1 1 2 47 183
ドイツ 91 90 62 92 140
オランダ 53 96 105 112 102
フランス 33 39 61 78 93

出所:財務省「貿易統計」から作成された農水省資料「商業用米の輸出実績」

本産米の消費経路にも、フィンランドには大きな特徴がある。英国の場合、高価格帯の日本産米はその大半を日本人駐在員が消費しており、英国人の口に入るのは、一部の高級レストランで提供される場合などごく一部に限られる。他方、フィンランドでは、年間183トン(2019年)の日本産米の大半がフィンランド人によって、しかも、その大部分がわずか1店舗のスーパーマーケットを通じて消費されている。具体的には、首都ヘルシンキから北へ電車で30分ほど行ったヤルベンパー(Järvenpää)という街の大型スーパー「シティマーケット」の持ち帰りずしコーナーだ。同店は、2019年のIGDアワード(注2)の年間最優秀店舗の表彰を受けるなど、大きな成功を収めているスーパーだ。すしコーナーでは、競合他店との差別化を図るため、日本産米とワンランク上のネタを用いて提供し、これが大ヒット商品となっている。フィンランドでは、同店の成功を受けて他のスーパーでも、持ち帰りずしに日本産米を導入する動きが広がりつつある。価格面で不利な日本産の食材も、適切なパートナーと結びつけば、欧州市場での成功の余地があることを示している。

スウェーデンでも日本食市場が拡大中

隣国スウェーデンは、人口1,023万人(2018年)、GDP5,561億ドル(同年)と、北欧4カ国の中で人口・経済規模ともに最大。また、1人当たりGDPは5万4,356ドル(同年)で、日本の3万8,343ドル(2017年)と比較しても高所得の国だ。これらの要因から、輸送コストを含めると高価になりがちな日本産食品にとって、北欧の中でも特に潜在的な成長可能性がある市場と言える。

日本食の浸透具合はフィンランドとおおむね同程度だ。すしは既に定着しており、ストックホルムには多数のアジア人経営のすしレストランがある。また、中華料理やタイ料理のレストランがすしビュッフェを併設しているケースも多い。ラーメン人気もフィンランドと同様で、その数は増えており、複数店舗を構える人気店も出てきている。現地の日本食関係者によると、すしに関しては、品質の低い店が淘汰(とうた)されているものの、全体的には依然として成長軌道にあるという。ラーメンに関しては、すしほどの規模や勢いはないが、着実に市場規模を拡大しているとのことだ。一方、すしやラーメン以外に、広く認知を獲得して日常的に食されている日本食はまだ少ない。Yakinikuという言葉には一定の認知はあるが、必ずしも日本式の薄切り肉の焼き肉を意味するわけではない。

流通市場については、日本産の食材を定期的にスウェーデンに輸入している輸入卸は、日本食専門卸2社と、寿司ネタ等の水産物を中心とする現地卸2社の、計4社とみられる。その他、日本以外のアジア圏から仕入れた日本食材(中国産ののり、韓国産のうどんなど)を扱うアジア食材卸が数社あり、スウェーデンでは日本産の食品や食材の多くはこれら10社程度のサプライヤーによって供給されている。

小売市場に関しては、日本人経営の日本食材専門店が2店舗あるほか、アジアンスーパーや自然食品を中心に扱う高級小売店でも、しょうゆやみそ、豆腐、海藻類などの日本食材がある。また、国内大手スーパーのイーカ(ICA)、コープ(COOP)、ヘムショップ(Hemköp)ではいずれも、しょうゆやのり、わさび、酢といったすし関連商品や、照り焼きソース、即席麺などの定番商品も取り扱っている。しかし、これらのスーパーの棚に日本産の商品はほぼなく、中国産や現地製造の商品が大部分を占めている。大手スーパーはプライベートブランド(PB)化を進めており、しょうゆや照り焼きソースなどでPB商品が展開されている。

商談会ではビーガン向け商品にも注目

ジェトロ・ロンドン事務所では、スウェーデンをはじめとした北欧市場で日本産食品の取り扱いを増やすべく、2019年10月14日、ストックホルムで食品輸出商談会を開催した。日本企業13社が参加し、各種調味料や麺類、水産物、のり、日本茶、乾燥野菜などの商品を紹介した。また、近隣のフィンランド、デンマーク、ノルウェー、エストニアからもバイヤー(調達・購買担当者)を招いた。

商談会では、来場者の属性に応じた効果的な商談機会を提供するため、卸・インポーターを対象とする午前の部と、レストラン関係者の午後の部に分け、2部構成で開催した。午前の部では、参加バイヤーにあらかじめ商談相手の希望を聴取し、時間割り方式のマッチングを組むことで、限られた時間の中で確度の高い商談を実現する一方、午後の部は出入り自由の回遊方式とし、積極的に試食機会を提供することに重点を置いた。

参加した卸・インポーターのバイヤーからは、大豆を原料に用いたビーガンミートや、牛乳の代わりに豆乳を使った大福、動物由来の成分を使用しない即席麺などを評価する声が聞かれた。これには2つの背景が考えられる。1つは、ベジタリアンやビーガンなどの菜食主義者向け商品としてのニーズだ。英国などと比較すると、スウェーデンでの菜食主義の広がりはまだまだ限定的との声も聞かれる一方で、すしネタとして作られたマグロの代替品が伸びているといった指摘もあり、菜食主義市場も一定の存在感を示しつつあることが考えられる。2つ目としては、EUの規制上のハードルが挙げられる。日本からEUに輸出可能な動物由来の食品は限られる中で、動物由来の成分を含まない商品の規制は少なく、バイヤーとしても取り扱いに前向きになりやすい。

このほか、わさびやのり、ゆず製品といった定番商品を評価する声も多く聞かれた。例えば、しょうゆに関して、既に量産品が大量に出回っている中で差別化のために特色ある製品を求めるバイヤーもおり、参入の余地はまだまだあるように感じられた。また、黒酢や黒ニンニクなどのニッチな商品にも一定の関心が示された。

レストラン関係者はマヨネーズやゆず関連商品、ラーメン、わさびなどに高い関心を寄せた。マヨネーズはサラダやトーストのトッピングなどとしてさまざまな利用方法がある点が評価された。ゆずは日本の味として広く北欧で認知されており、すしのトッピングや料理の風味付けなどさまざまな場面で利用できる点に好感が持たれた。また、出展されたラーメン全般も好評を博したが、中でもビーガン用ラーメンが近年のラーメン人気とビーガン需要の高まりを受けて高い評価を得ていた。


商談会の第1部は時間割り方式とし、あらかじめ組んだマッチングに
基づいてバイヤーと出品者の個別商談が行われた(ジェトロ撮影)

商談では価格戦略や柔軟な対応がカギに

通常は商談から取引開始まで時間を要することが多い。しかし、今回は商談会開催から約4カ月で取引を開始しているケースも複数確認できた。要因は、前年の商談会に参加した欧州側バイヤーに日本産食材の取り扱いに関するノウハウが蓄積されたこと、日本の参加者にも欧州市場に比較的慣れてきた企業が多かったことがある。加えて、現在は日本からの直接の輸入ルートを持たないものの、商談会の参加事業者との商談を契機として自社での直接輸入を検討しているアジア食材インポーターもいた。

また、既に取引が開始されていた商品の中には、現地では相当な高価格となる調味料も含まれる。取り扱いを決めたバイヤーによると、高級レストランなどからのニーズを見込み、まずは少量から開始したという。こうした商品のメーカーは海外輸出の経験が豊富で、バイヤーとのコミュニケーションがスムーズに進んだことも、成功要因の1つだ。このことは、高価格帯のニッチな商品であっても、品質や独自性で他社との差別化が図られており、かつ、現地バイヤーと円滑なやり取りが可能であれば、成約に至る可能性が十分にあることを示している。

他方、大手スーパーなどのメインストリームへの販売に当たっては、一般消費者に受け入れられる価格設定が不可欠だ。例えばラーメンのような商品であれば、中国産や韓国産、タイ産など他のアジア産製品との競合が避けられず、いかに価格を抑えられるかがポイントとなる。また、商談会の参加バイヤーからは、PBへの対応可能な麺類を求める声も上がっていた。PB商品として取り扱ってもらうには、パッケージや内容量の調整など柔軟な対応も求められるが、こうしたニーズに応えることができれば、大きな需要を取り込むことができよう。

北欧の日本食市場は、すしやラーメンは定着しつつあるものの、まだまだ発展途上だ。他方、フィンランドでの日本産米の成功が物語るように、購買力のポテンシャルは高く、発展途上であるからこそ商機が眠っているとも言える。こうした意味で魅力的な市場と言えそうだ。


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May 07, 2020 at 03:35PM
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