中国、いや、世界最大のネットセールになった11月11日の「独身の日セール(ダブルイレブン)」は日本でも毎年ニュースになるので、耳にしたことがある人は多いだろう。一方、「618セール」はどうか。
こちらも「6月18日」にちなんだ有名なECセールだが、「独身の日」の二番煎じ感もあるし、昨年ほどのインパクトもないので、筆者はスルーする気満々だった。
だが、アリババ・ジャパンの広報担当者が「中国の消費の成熟を示す新しいトレンドが出てきて面白い」とプッシュしてきたため、自身の情報収集も兼ねて越境EC関係者以外にはそもそも知られていない「618セール」と、今年のトレンドを紹介することにした。
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一企業が始め、「国民的商戦」に変貌
冒頭でアリババの名前を出しておいて何だが、618セールは元々、中国のECで2位の京東商城(JD.com)が始めたネットセールで、1998年6月18日の会社設立日にちなみ、2010年に始まった(と、中国版Wikipediaのような百度百科に書いてある)。アリババが09年に始めた独身の日セールは、12年ごろには既に中国で広く認知されていたが、「618」が盛り上がるようになったのは、この3〜4年だと思う。
独身の日セールは日本で「アリババのセール」と認識され、同社のECサイト「天猫(Tmall)」の取引額が報道されるが、実際にはほとんどのEC企業に加え、百貨店や小売りブランドのリアル店舗など、多様なプレイヤーが同時期にセールを展開し、国民的な商戦になっている。
618も同様で「京東のECセール」といわれている割には、アリババの方が大々的なキャンペーンを行ったり、EC第三極として注目されている「拼多多(Pingduoduo)」がクーポンをばらまいたりと、実際には商業界全体のセールといえる。
日本の百貨店やショッピングセンターで夏・冬のセールが恒例となっているように、中国でも6月と11月が年2回の大セールとして、定着した感はある。副作用として、2回のセールの前は買い控えも起きる。かつて消費のピークは連休が多い9、10月で「金九銀十」と呼ばれていたことを考えると、皮肉な話でもある。
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最大の関心はiPhoneの値引き
11月のセールも、6月のセールも、ECプラットフォームはクーポンをばらまき、目玉商品を用意し、「ナイキの売り上げが〇秒で×億元突破」「昨年1日の売り上げを11時に更新!」「化粧品ブランド売り上げトップ5を発表」といった話題作りに努める。景気のいい数字が出すぎて、著名ブランドが何十億円売れても、すごいのかすごくないのか麻痺してくる。
セール期間中に流れてくるニュースを見ると、消費者が特に関心を持っているのはやっぱりiPhoneを筆頭としたスマホの動向だ。昨年の「独身の日」セールではあまり値引きされなかったiPhone12だが、今年の618セールではかなり安くなっている。
拼多多では、定価6799元(約11万7000円)の「iPhone12 128GB」が4999元(約8万6000円)で購入できる。最近、ユーザー数でアリババを逆転した拼多多。iPhoneだけでなく、テスラのEVを格安で販売したりして、話題づくりが実にうまい。
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国産ブランドの台頭と好みの細分化
さて、日本でそこまで認知されていない618セールだが、20年は「コロナ禍からの消費の復活を占うセール」として大注目され、各EC企業もさまざまな施策を投入した。
これまでライブコマースの主力は若い消費者とKOL(キーオピニオンリーダー)だったが、コロナ禍で身動きが取れない企業経営者や農家も一斉にライブコマースを始め、ショート動画アプリの抖音(TikTokの中国版)と快手も、勝機とばかりに618商戦になだれ込んできた。
その反動で、21年はどうしてもネタ切れ感がある。独占禁止法違反で巨額罰金を受けたアリババの動向、デジタル人民元での決済を導入した京東など、気になる点はあれど、ほとんどの日本人読者にはかなりどうでもいいトピックだろう。
とはいえ、日々の売れ筋をチェックしている運営側から見ると、日本企業にもヒントになるような、注目すべき変化がいくつかあるという。
アリババ・ジャパンの広報担当者は、「カテゴリー別の売れ筋を見ると、私が知らないブランドばかりなんですよ」と話す(京東が始めたセールなのに、ここでもアリババに取材しているのは、京東の日本法人は事実上撤退してしまったからだ……)。
広報担当者が聞いたことがなくとも上位に並んでいる=人気、なわけで、つまり国産新興ブランドの台頭と、好みの細分化が起きているようだ。
この1〜2年は中国らしさを前面に出した「国潮」が流行っているが、上位に来るのはそういった民族系ブランドというよりは、どこの国のものか分からなかったり、性別を問わず使える「ボーダレス」「ジェンダーレス」なブランドだという。
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ペット用サプリは2000%増
もう一つの特徴は、巣ごもり志向の反映だという。
越境EC関連では、アロマグッズや家飲みを想定した果実酒が前年より売れ行きを伸ばしており、「10年前はアルコールといえばワイン、ビール、白酒くらいだったが、初心者や若い女性をターゲットにした低アルコール果実酒の人気がすごい。手軽に飲める小さなサイズのものが売れているのも特徴」(アリババ・ジャパン)。
消費の成熟も顕著で、植物由来の「代替肉」、ペット向けサプリメントも伸びが著しいという。
これらの商品のターゲットは18〜30歳の「Z世代」。特に、好きなものに支出を惜しまない都市部の女性の心を捉えられるかが重要なポイントとなっており、ここ数年で急成長している中国消費財ブランドの多くが、高所得の独身女性に支えられている。
最近中国政府が「3人目の出産を容認」する方針を打ち出した際、北京で働く20代女性は、「子どもは手と金がかかるので、私はワンちゃんでいい」と答えた。
アリババによると、ペット用ヘルスケア製品(輸入品)の販売数は6月1日のセール正式開始から12時間で、前年比2000%増を記録したという。
たしかに、子どもの塾代に比べるとペット用サプリメントは大した金額ではないし、満足感も得られやすい気がする……。
若い女性が高付加価値品やぜいたく品にお金を使うのは、新興ブランドや海外の中小企業にとって歓迎すべきことだが、少子化に悩む政府にとってはジレンマそのものかもしれない。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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