太陽系最初期の物質発見か
小惑星リュウグウの画像分析を進めている「はやぶさ2」チームは、探査機「はやぶさ2」が低高度で撮影したリュウグウの表面に、太陽系が形成された最初期のものかもしれない岩塊を発見しました。「はやぶさ2」のカプセルが持ち帰ったサンプルの分析は、まだ始まったばかり。あらためてその作業の進展が期待される明るいニュースですね。
立教大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究チームが英国の科学誌「ネイチャー・アストロノミー」に最近発表した論文によれば、小惑星リュウグウに「はやぶさ2」が低高度まで降りて取得した画像を赤外線で分析した結果、直径20メートル以下の二つのクレーターの中心に、昼間は非常に温まりやすく、夜間は非常に冷えやすい特徴を持つ、10センチくらいの黒い岩の集合体が存在していることが分かりました。(写真1)
私たちの太陽系が作られ始めたころ、チリやガスが集まって最初に集積したのは、「微惑星」と呼ばれるふわふわした密度の小さな物質だったと考えられています。しかし、その微惑星を形づくった物質はまだ見つかっていません。今回の「はやぶさ2」チームの発見は、それが実際にどのようなものだったかを知る貴重な手がかりを提供する可能性があります。
「はやぶさ2」に搭載された中間赤外線カメラ(TIR)によって見つけたのは、周囲と同じような太陽光を浴びているのに、そこだけ異常に高温になっている「ホットスポット」です。それはそこだけが大変温まりやすい(逆に夜は冷えやすい)ことを意味しており、岩の中に隙間が多く、材質が低密度であると解釈できます。データによると水よりも軽い岩石(密度が水の80%程度)らしい。そのホットスポットは、大きさ10センチくらいの黒い岩の塊のようです。
小惑星は「太陽系の化石」とも呼ばれ、太陽系誕生直後の物質の情報を濃厚に残していると考えられています。ただし、その小惑星も、数十億年にわたる歴史の過程で、物質が集まって発生した自己重力や放射性元素の崩壊熱、太陽の放射熱などで変性したり、衝突による破壊と再集積を繰り返したりして、さまざまに変化しています。そんな中でリュウグウの一部に、太陽系の最初期の特徴を保存している部分が存在していれば、誕生間もない太陽系の研究に大きな進展が期待できます。
しかも、日本の「はやぶさ2」がリュウグウにタッチダウン(写真2)し、カプセルで持ち帰ったサンプル(写真3)には、画像だけではないその実物が含まれている可能性が高いのです。
いま世界中で「はやぶさ2」のサンプルの本格的分析が一斉に始まっています。太陽系全体の形成のストーリーに関わる微惑星の直接的な手がかりが、その中から大量に得られることが期待されています。今回のチームの発表で、ますますその分析の成果を早く見たいものだと思うようになりました。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。
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