宇宙が誕生して1秒以内に生まれたとされる未知の素粒子「アクシオン」を、実験で観測できる可能性があるとする論文を、東京大カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)などのチームが米科学誌に発表した。観測できれば、誕生直後の宇宙の姿を見られる新たな物理学の幕が開く。
アクシオンは、物理学の根幹をなす標準理論には含まれていないが、理論的に予言されている軽い素粒子の一つ。宇宙の組成の4分の1を占める暗黒物質(ダークマター)の有力な候補とされる。
ほとんどのものをすり抜けてめったに反応しない素粒子ニュートリノよりもさらに反応しないといい、米国などで探索実験が続いているが、見つかっていない。ただ、予言では、強い磁場と反応して光に変わる場合があるとされる。
カブリIPMUの村山斉教授らは、アクシオンのなかでも、宇宙が誕生した直後に大量に生まれ、ほぼ光速で飛び交っているアクシオンに注目。既存の実験は宇宙をゆっくり漂うアクシオンに照準を合わせているが、実験装置に工夫を施したり、すでに得られているデータを別の手法で解析し直したりすることで検出できる可能性があるとした。
光よりさらに昔、生まれたての宇宙を「見る」
宇宙の誕生直後は超高温のガスで満ちていて、光で観察できるようになるのは38万年経ってから。その頃の姿は「宇宙マイクロ波背景放射」の画像として知られる。しかし、アクシオンならガスに邪魔されず、より遠方の、つまり古い宇宙を観察できるとみられる。
発表を受け、米国の研究者らがすでに、過去の実験データに怪しい信号がないか解析を始めようとしているという。村山さんは「その中からアクシオンの痕跡が見つかるかもしれない。検出できれば、光で見るよりもさらに昔にさかのぼり、生まれたての宇宙を直接見ることができる。非常に楽しみだ」と話した。
論文はフィジカル・レビューDのサイト(https://doi.org/10.1103/PhysRevD.103.115004)で読める。(石倉徹也)
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